開催趣旨

 人口減少社会に突入し、グローバル化の荒波に揉まれながら新たな価値の創造が求められている我が国において、将来を担う人材育成に寄与する教育手法の確立は喫緊の課題です。特に、人類共通の課題解決に向けて、文化も社会背景も言語も異なる多くの人々と手を携え、互いを尊重しながらも自らの考えを粘り強く訴えていく論理的コミュニケーション能力は、これから益々必要とされていくと言えるでしょう。

 その上で、今後益々教育の柱として期待されるのが、与えられたテーマに対し機械的に賛成・反対に分かれ、限られた時間のスピーチによって説得力を争う「ディベート」です。「ディベート」は、論理構成力、コミュニケーション力、判断力、洞察力、資料解析力など、聞くだけの授業や暗記型の試験勉強では中々身につけることのできない、今後の社会で強く必要とされる様々な能力を磨くことが可能なプログラムとして以前より注目されており、20年前から「全国中学・高校ディベート選手権(ディベート甲子園)」が大規模な全国大会として開催されています。また、ディベート甲子園出身のOB・OGが、法曹・医療・金融・教育・公務員など幅広い分野で活躍を遂げていることも見過ごしがたい成果です。

 しかし、全国教室ディベート連盟をはじめとした関係諸団体の御尽力の賜物で、ディベートに取り組む競技者が着実に増加し、「ディベート」という言葉自体は以前に比べて随分と浸透したものの、依然として「詭弁」「机上の空論」「口喧嘩」といった否定的な見方が、一部に根強く存在しているのは甚だ残念でなりません。また、ディベートに興味を抱いて門を叩こうとする人々にとって、一流のプレーヤーがしのぎを削る競技ディベートはあまりに敷居が高く、かえって疎外感を抱く場合も少なくないという事実からも目を背けてはならないでしょう。さらに、現在ディベートに取り組む学校が増えてきているのは喜ばしい限りなのではありますが、学校の枠を超えて取り組みについて共有し、互いに深め合うような機会があまりないのも残念至極です。
 この日本にディベートが真に根付くことで、国民一人一人が刹那的な感情に流されたり、流言飛語に惑わされたりすることなく、冷静に判断を下せる社会が実現可能となるに相違ないと私たちは考えます。その日の実現に向け、ディベートの普及に努める責務があることを、ディベーターは片時も忘れるべきではないでしょう。ディベートが、知的特権階級の独占物であったり、その道を究めんとする者だけしか立ち入れない聖域になったりすることは断じて許されるものではないのです。

 そこで、全国教室ディベート連盟をはじめとした関係諸団体の今までの取り組みと、中高生に対するディベートの普及にディベート甲子園が果たしてきた多大なる役割に敬意を表して尊重しつつ、現状ディベートに対して十分な理解を持ち合わせているわけではない方々に向けて、ディベートの魅力が自然と伝わっていくようなルールの下で行われる大会を催したいというのが最大の狙いです。
 また、最大の目標であるディベート甲子園制覇を目指す高校生が、聴衆を強く意識したディベートに触れることは、聞き取り能力の高い審判に甘える独善的なスピーチを見直す効果を生むと期待されます。さらに意見交換会を通じて、顧問同士で改めてディベートに取り組む意義を確かめ合うことで、学校教育においてディベートがさらに広まっていく機会としたいという思いも強くあります。

 是非当大会を通じて、競技者は勿論、聴衆の方々にもディベートの奥深さに触れていただき、ディベートの持つ高い教育効果を多くの方に認識していただく契機となることを心より願う次第です。